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再会の嵐 ①

Author: 紅城真琴
last update Last Updated: 2025-06-08 19:23:44

7月初め。

まだ梅雨の名残が残る曇天。

今日は、渚が東京にやって来る日。

私は最寄りの駅まで1人で向かい、到着を待った。

どこ間のカフェで待ち合わせることも考えたけれど、いきなり二人っきりで会うのが怖かった。

突然黙っていなくなった私のことを渚がどれだけ怒っているかと思うと、人が多いところの方が安心できると思えた。

もちろん、美樹おばさんもみのりさんも一緒に行こうと言ってくれたけれど、断わって一人で来た。

自分のとった行動の責任はとらなくてはいけないし、ちゃんと渚と向き合わないといけない。

それでも不安な私は約束の時間よりも30分も早く駅に着き、行き交う人の波を見ながらどんな顔をして渚に会おうかと考えていた。

・・・5分。

・・・10分。

・・・15分。

あー、緊張する。

待つって、こんなに時間がたたないものだったっけ。

・・・20分。

...25分。

そろそろ、渚の乗った電車が到着する時間。

私は駅の待合に座り、改札を出てくる人達を見つめていた。

そして、約束の時間ちょうどに渚は現れた。

「渚」

すぐに目が合ったけれど、私は立ち上がったっきり足がすくんで動けなくなった。

ツカツカと近づく渚。

私の心臓は大きく鼓動を打つ。

「樹里亜」

目の前まで来て立ち止まった渚は、真っ直ぐに私を見て名前を呼んだ。

次の瞬間涙が溢れ、私は彼の肩に頭を乗せた。

「バカヤロウ」

絞り出すような言葉。

「ごめんなさい」

必死に涙をこらえながら言った。

「嫌だ。許さない」

渚も涙声になっている。

私は渚に手を回し、渚もギュッと抱きしめてくれた。

私達はどの位そういていたのだろうか、

懐かしくて、心地よくて、できることならずっと
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